暗号資産バブル

2017年と2021年に発生したビットコインを中心とする仮想通貨の急騰と暴落

概要

暗号資産(仮想通貨)バブルは、2017年と2021年に発生したビットコインをはじめとする 暗号資産の価格の急騰と暴落を指します。特に2017年末には、ビットコインの価格が 年初の約1,000ドルから約20,000ドルへと20倍に急騰し、その後2018年末までに 約3,200ドルまで下落しました。

さらに2021年には、機関投資家の参入やNFT(非代替性トークン)の流行などを背景に 再び価格が急騰し、ビットコインは約69,000ドルの史上最高値を記録しました。 しかし2022年には、インフレ懸念や金利上昇、暗号資産関連企業の破綻などにより 再び大幅な下落を経験しました。これらのバブルは、新技術への過度の期待と 投機マネーの流入が引き起こした典型的な投機バブルとされています。

暗号資産バブルの基本情報

  • 発生時期:2017年(第1次)、2021年(第2次)
  • 中心となった資産:ビットコイン、イーサリアム、アルトコイン
  • 第1次ピーク:2017年12月、ビットコイン約20,000ドル
  • 第1次崩壊:2018年、ビットコイン約85%下落
  • 第2次ピーク:2021年11月、ビットコイン約69,000ドル
  • 第2次崩壊:2022年、ビットコイン約75%下落
暗号資産バブルの概要
2017
第1次バブル
2021
第2次バブル
20倍
最大上昇率

2017年と2021年に発生した暗号資産の急騰と暴落

背景

ビットコインの誕生

暗号資産の歴史は、2008年10月31日に「サトシ・ナカモト」という謎の人物(または集団)が 発表した論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」から始まります。 この論文では、中央機関に依存しない分散型の電子マネーシステムが提案されました。 2009年1月3日、最初のビットコインブロック(ジェネシスブロック)が生成され、 ビットコインネットワークが稼働を開始しました。

初期の発展(2009-2013年)

当初、ビットコインは一部の技術愛好家やサイファーパンク(暗号技術を通じて 社会変革を目指す活動家)の間でのみ知られていました。2010年5月には、 フロリダの男性が10,000ビットコインで2枚のピザを購入した「ビットコインピザデー」が 話題となりました(現在の価値では数億円相当)。2013年には、キプロスの金融危機を きっかけに初めての大きな価格上昇が起こり、ビットコインは一時1,000ドルを超えました。

ビットコインの誕生
2008
論文発表
2009
稼働開始
開発者

サトシ・ナカモトによるビットコインの原論文(2008年)

アルトコインの登場

ビットコインの成功に触発され、2011年以降、多くの代替暗号資産(アルトコイン)が 登場しました。2015年に立ち上げられたイーサリアムは、単なる通貨ではなく スマートコントラクト(自動実行される契約)のプラットフォームを提供し、 暗号資産の可能性を大きく広げました。これにより、分散型アプリケーション(DApps)や 分散型金融(DeFi)、非代替性トークン(NFT)など、様々な応用が可能になりました。

規制環境の発展

暗号資産の普及に伴い、各国政府や規制当局も対応を迫られました。 当初は無視や禁止の姿勢を取る国も多かったですが、次第に規制の枠組みが 整備されていきました。日本では2017年4月に改正資金決済法が施行され、 ビットコインなどが「仮想通貨」(後に「暗号資産」に改称)として法的に認められました。 一方で中国などは厳しい規制を導入し、暗号資産の採掘(マイニング)や 取引所の運営を禁止しました。

「ビットコインは、信頼ではなく暗号学的証明に基づく電子マネーシステムだ」 - サトシ・ナカモト(ビットコイン原論文より)
ブロックチェーン技術の発展
BTC
ビットコイン
ETH
イーサリアム
多数
アルトコイン

ビットコインからイーサリアムへと広がるブロックチェーン技術

暗号資産の初期発展

2008年10月

サトシ・ナカモトがビットコインの論文を発表。

2009年1月

ビットコインのジェネシスブロックが生成され、ネットワークが稼働開始。

2010年5月

初の実取引。10,000BTCで2枚のピザを購入(ビットコインピザデー)。

2013年

キプロス危機をきっかけに初の大きな価格上昇。一時1,000ドルを超える。

2015年

イーサリアムが立ち上げられ、スマートコントラクトの時代が始まる。

2017年と2021年のピーク

2017年のICOバブル

2017年は暗号資産市場にとって転換点となりました。ビットコインの価格は 年初の約1,000ドルから年末には約20,000ドルまで急騰し、 イーサリアムやリップルなどのアルトコインも同様に大幅な上昇を見せました。 この年は「ICOバブル」とも呼ばれ、多くのスタートアップ企業が ICOを通じて資金調達を行いました。2017年だけで約6,000のICOが実施され、 総額約60億ドルが調達されました。

2018年の暴落と「暗号資産の冬」

しかし、2018年初頭から暗号資産市場は急落し始めました。 ビットコインの価格は2018年12月までに約3,200ドルまで下落し、 ピーク時から約85%の価値を失いました。多くのICOプロジェクトは 約束した製品を提供できず、詐欺的なプロジェクトも多数露呈しました。 2018年から2019年にかけては「暗号資産の冬」と呼ばれる低迷期が続きました。

2020-2021年の再上昇

2020年後半から、暗号資産市場は再び上昇し始めました。 新型コロナウイルスのパンデミックによる世界的な金融緩和策、 機関投資家の本格的な参入、そしてDeFi(分散型金融)やNFT (非代替性トークン)などの新たな用途の台頭が、この上昇を後押ししました。 2021年11月、ビットコインは史上最高値となる約69,000ドルを記録し、 暗号資産市場全体の時価総額は約3兆ドルに達しました。

NFTとメタバースの熱狂

2021年は「NFTの年」とも呼ばれ、デジタルアートやコレクティブルの NFTが数百万ドルで取引される事例が相次ぎました。 アーティストのBeepleによるNFTアート「Everydays: The First 5000 Days」は クリスティーズのオークションで6,930万ドルで落札され、 CryptoPunksやBoredApeYachtClubなどのNFTコレクションも 高額で取引されました。また、メタバース関連の暗号資産プロジェクトも 注目を集め、仮想土地が数百万ドルで売買される現象も見られました。

2021年の暗号資産バブルの特徴

  • 機関投資家の参入:テスラ、マイクロストラテジー、スクエアなどの上場企業がビットコインを購入
  • DeFiの急成長:分散型金融プロトコルにロックされた資産が1,000億ドルを超える
  • NFTの爆発的人気:デジタルアートやコレクティブルの高額取引
  • メタバース関連トークンの急騰:仮想世界の土地や通貨への投機
  • 暗号資産ETFの承認:米国でビットコイン先物ETFが承認され、機関投資家のアクセスが向上
ブロックチェーン応用
金融
決済・送金
産業
サプライチェーン
医療
データ管理

投機的バブルを超えたブロックチェーン技術の実用的応用例

2017年と2021年のバブル期

2017年1月

ビットコインの価格が約1,000ドルで取引開始。

2017年6月

ICOブームが始まり、多くのトークンが発行される。

2017年12月

ビットコインが約20,000ドルの最高値を記録。

2020年3月

コロナショックで一時3,800ドルまで下落するも、その後回復。

2021年11月

ビットコインが約69,000ドルの史上最高値を記録。

2022年の崩壊

市場の急落

2022年に入ると、インフレ懸念の高まりと各国中央銀行の金融引き締め政策への 転換を背景に、暗号資産市場は下落し始めました。5月には、 テラ(LUNA)とUST(テラUSD)というステーブルコインの崩壊が発生し、 市場全体に大きな衝撃を与えました。USTは米ドルと1:1の価値を保つはずでしたが、 その仕組みが崩壊し、関連するLUNAトークンは事実上無価値になりました。 この事件により、約600億ドルの市場価値が消失しました。

FTXの破綻

2022年11月、当時世界第2位の暗号資産取引所だったFTXが 突如として流動性危機に陥り、破綻しました。FTXとその関連企業である アラメダ・リサーチは、顧客資産の不正流用や会計上の不正行為を 行っていたことが明らかになりました。FTXの破綻により、 数十億ドルの顧客資産が凍結され、暗号資産市場全体の信頼性が 大きく損なわれました。FTXの創業者サム・バンクマン=フリードは 後に詐欺や資金洗浄などの罪で起訴されました。

「暗号資産の冬は、真のイノベーターと投機家を分ける試金石となる」 - 業界関係者の言葉
FTX破綻
時期
2022年11月
影響
市場混乱
結果
信頼喪失

2022年11月のFTX破綻を報じるニュース

規制強化の動き

一連の暗号資産関連企業の破綻を受けて、世界各国の規制当局は 暗号資産市場に対する監視と規制を強化する動きを見せました。 米国では証券取引委員会(SEC)が多くの暗号資産を証券として 規制する姿勢を強め、欧州連合(EU)では包括的な暗号資産市場規制 (MiCA)の策定が進められました。日本や韓国、シンガポールなどの アジア諸国も同様に規制の枠組みを整備しました。

業界の再編と「暗号資産の冬」

2022年末から2023年にかけて、暗号資産市場は「暗号資産の冬」と 呼ばれる低迷期に入りました。多くの暗号資産関連企業が倒産や リストラを余儀なくされ、業界全体で大規模な再編が進みました。 ビットコインの価格は2022年末には約16,000ドル前後まで下落し、 ピーク時から約75%の価値を失いました。NFT市場も急速に冷え込み、 取引量は2021年のピーク時と比較して90%以上減少しました。

2022年の主な暗号資産関連企業の破綻

  • 5月:テラ(LUNA)とUST(テラUSD)の崩壊
  • 6月:暗号資産ヘッジファンドThree Arrows Capitalの破綻
  • 7月:暗号資産レンディングプラットフォームCelsiusとVoyagerの破産申請
  • 11月:暗号資産取引所FTXの破綻
  • 11月-12月:BlockFi、Genesis Tradingなど複数の企業が経営危機に

2022年の暗号資産崩壊

2022年1月

インフレ懸念と金利上昇予想から暗号資産市場が下落し始める。

2022年5月

テラ(LUNA)とUST(ステーブルコイン)が崩壊。市場に大きな衝撃。

2022年6月

大手貸出プラットフォームのCelsiusが顧客資産の引き出しを停止。

2022年11月

大手取引所FTXが破綻。創業者SBFが詐欺の疑いで逮捕される。

2022年12月

ビットコインが15,000ドル台まで下落。2021年のピークから約75%の下落。

歴史から得られる教訓

新技術バブルの普遍的パターン

暗号資産バブルは、過去の技術バブル(鉄道バブル、ドットコムバブルなど)と 多くの共通点を持っています。革新的な技術が登場すると、その潜在的な 可能性に対する過度な期待が生まれ、投機的な熱狂が引き起こされます。 しかし、技術の実用化と社会への浸透には時間がかかるため、 短期的な期待と現実のギャップが生じ、バブルの崩壊につながります。 暗号資産バブルは、新技術の登場から普及までのプロセスにおける 「期待のインフレーション」と「現実の調整」という普遍的なパターンを 改めて示しました。

規制の重要性

暗号資産市場の急成長と崩壊は、新興技術分野における適切な規制の 重要性を浮き彫りにしました。規制の不在や不明確さは、詐欺的な プロジェクトや不適切な事業慣行を助長し、最終的に市場全体の 信頼性を損なう結果となりました。一方で、過度に厳しい規制は イノベーションを阻害する可能性もあります。暗号資産の経験は、 イノベーションを促進しつつも投資家保護を確保するバランスの 取れた規制枠組みの必要性を示しています。

暗号資産バブルから学んだ主な教訓

  • 新技術バブルの普遍的パターン
  • 適切な規制の重要性
  • 「今回は違う」という言説への警戒
  • 投資と投機の区別
  • 技術の可能性と実用化のタイムラグ
  • 市場の透明性と情報の非対称性の問題

バブルの教訓

新技術
過大評価
規制
バランス
投資
長期視点

暗号資産バブルから得られる重要な教訓と今後への示唆

投資家への教訓

暗号資産バブルは個人投資家に重要な教訓を残しました。 「FOMO(Fear Of Missing Out:取り残される恐怖)」に基づく 投資判断の危険性、理解していない複雑な金融商品への投資リスク、 そして分散投資の重要性などが再認識されました。また、 「今回は違う」という言説に対する健全な懐疑心を持つことの 重要性も浮き彫りになりました。暗号資産への投資を検討する際は、 基礎となる技術や事業モデルを理解し、長期的な視点を持つことが 重要です。

技術と投機の分離

暗号資産バブルの経験は、基盤技術(ブロックチェーン)の 潜在的価値と、その上に構築された投機的資産の価格変動を 区別することの重要性を示しています。ブロックチェーン技術自体は、 金融、サプライチェーン管理、デジタルアイデンティティなど 様々な分野で革新的な応用可能性を持っています。バブル崩壊後も、 多くの企業や組織がこの技術の実用化に取り組んでおり、 長期的には社会に価値をもたらす可能性があります。

「すべての新技術は、過大評価された短期と過小評価された長期の間で揺れ動く」 - アミアラ法則
ブロックチェーン応用
金融
決済・送金
産業
サプライチェーン
医療
データ管理

投機的バブルを超えたブロックチェーン技術の実用的応用例

金融システムへの影響

暗号資産の台頭は、既存の金融システムに対する挑戦と 変革の可能性を示しました。中央集権的な金融機関への 依存を減らし、より開かれた金融システムを構築するという ビジョンは、多くの人々の共感を得ました。バブル崩壊後も、 中央銀行デジタル通貨(CBDC)の研究開発が世界中で 加速するなど、暗号資産の概念は既存の金融システムに 影響を与え続けています。

今後の展望

暗号資産市場は2022年の崩壊後、徐々に安定化の兆しを 見せています。規制の枠組みが整備され、投機的な過熱が 抑制される中で、より持続可能な形での発展が期待されています。 長期的には、ブロックチェーン技術の実用的な応用が進み、 投機的側面よりも実用的価値が重視されるようになる可能性が あります。また、Web3やメタバースなどの新たな概念と 組み合わさることで、デジタル経済の新たな形態が 生まれる可能性もあります。

金融システムの未来

CBDC
中央銀行デジタル通貨
DeFi
分散型金融
Web3
次世代インターネット

暗号資産の概念が既存の金融システムに与える影響と今後の展望

暗号資産バブルは、新技術の登場に伴う投機的熱狂と崩壊という 歴史的に繰り返されてきたパターンの最新の事例です。 しかし、すべてのバブルがそうであるように、その崩壊後も 基盤となる技術や概念は進化し続け、長期的には社会に 価値をもたらす可能性があります。暗号資産バブルから得られる 教訓を活かし、より健全な形でのイノベーションと 投資が行われることが期待されます。