3. チームで安全に作業を進めるための具体的な使い方例
ブランチとプルリクエストの概念を踏まえ、どのように業務で「安全な作業手順」を実現するか、簡単な例を紹介します。これらの仕組みを活用することで、チームでの作業効率を高めながらも、品質を確保できる環境を整えることができます。
ブランチとプルリクエストで実現する安全な作業環境
ブランチとプルリクエストを組み合わせることで、「作業はブランチで自由に、取り込みは確認を経て慎重に」という理想的なチーム作業環境を実現できます。以下の具体例を通じて、この仕組みの有効性を理解しましょう。
社内規程の改訂作業の例
状況
総務部で社内就業規則の改訂プロジェクトがスタート。現在の規程はGitHubで管理されており、main
ブランチ上に最新PDFとMarkdown文書がある。改訂作業は時間がかかり、法務チェックも必要なので、直接mainをいじらずブランチ+PRで進めることにした。
【画像: 社内規程リポジトリの初期状態】
ブランチ作成
担当の総務部員がrev-2024
という新ブランチをmain
から作成。このブランチで就業規則.mdの文章を修正してコミットしていった。重要な変更点ごとにコミットを分け、コミットメッセージには「有給休暇条項の変更」など簡潔に記述した。
プルリクエスト作成
ある程度変更が固まったところで、法務部へレビューを依頼するためにプルリクエストを作成。タイトルは「就業規則2024改訂案レビュー依頼」、説明文で「改訂ポイントは〇〇と△△です。法務観点で問題ないか確認お願いします。Closes #45(関連Issue)」と記載。レビュアーに法務担当者を指定した。
【画像: 規程改訂のプルリクエスト作成画面】
レビューと修正
法務担当者がPRを開き、差分(変更箇所)を確認。GitHub上でインラインコメント機能を使い、「第5条のこの表現は曖昧なので変更提案」として具体的な文案をコメント提案(suggestion機能)した。総務担当は提案を受け入れ、ブランチ上でその通り修正コミットを追加。PRページに自動反映された。再度法務がチェックし、問題解消を確認したので「Approve(承認)」を付けた。
【画像: レビューコメントと承認の様子】
マージと展開
総務担当は法務の承認サインを確認し、プルリクエストをマージ。改訂内容がmainブランチに反映された。続いて、そのMarkdownからPDFを生成し直して社内告知用に添付。プルリクエスト上で「承認いただいたのでマージしました。〇月〇日に施行予定で告知します」とコメントを残し、関連Issueもクローズ。作業ブランチrev-2024
は削除した。
記録
この一連の改訂プロセスは、GitHub上にプルリクエストとして残り、誰でも履歴を辿れば変更内容とやり取りを確認できる状態になっている。半年後、新たに入った総務部員が「なぜこの規程が変わったのか?」と疑問に思った際、当時のプルリクエストを見せることで背景を説明できた。
メールベースの作業との比較
この例では、もしGitHubを使わずメールでWordファイルをやり取りしていたら、版の混乱や見落としが起きていた可能性があります。しかしブランチ&PR方式では、一箇所で改訂案を管理し、レビューも含め履歴が統合的に残るため非常に安心感があります。実際、「プルリクエストを通じてレビューを行う文化」を採り入れる企業は増えており、コード以外のドキュメントに対してもPRを用いるケースも出てきています。
高度な活用とチーム文化の醸成
自動チェックとの連携
プルリクエストには他にも自動チェックとの連携(例えば文章校正ツールやCIとの組み合わせ)など高度な活用も可能です。しかし、まずは人間のレビュープロセスに注力するとよいでしょう。承認制フローが必要な業務には積極的に取り入れてみてください。
チームの作業文化
ブランチとプルリクエストを活用する文化は、「個人の作業を尊重しつつ、チェック体制も確保する」という、理想的なチーム作業環境を実現します。特に以下のような状況で効果を発揮します:
- 複数人が同時に異なる作業を進める場合
- 重要な文書の承認フローが必要な場合
- 変更履歴と承認記録を残す必要がある場合
- 品質管理を徹底したい場合
演習課題
新しいブランチを作成し、その上でREADME.mdなど適当なファイルに編集を加えてみましょう。次にプルリクエストを作成し、自分以外のユーザー(友人や同僚でも可)にレビューアサインをしてもらってください。レビューア役の人には、変更内容を見て1つコメントを入れてもらいましょう。そのコメントを受けてブランチ上で修正コミットを追加し、最終的にプルリクエストをマージする一連の流れを試してください。